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白い九谷焼へと刺繡のようなイッチン技法を凝らす苧野直樹さん

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白磁に縫い付けられたレースのような装飾

九谷焼には青手や五彩手、赤絵金襴手など
色彩豊かな絵画的装飾を施されたものがある一方で
白磁の九谷焼も焼造されています。

九谷焼の発祥地である石川県加賀市は、古くは江沼郡と呼ばれ
河川や沼池、温泉や水田といった潤いに富んだ自然環境を有します。
そうした江沼の湿地帯を偲ばせる水景のひとつが柴山潟です。

柴山潟からは、雪を頂く霊峰白山を眺望できますが
そこから程近い工房で作陶している苧野直樹さんの焼物もまた
白を基調とした作風が特徴です。

イッチンによる装飾が、白磁に縫い付けられたレースのように
立体的な紋様を浮かび上がらせます。

 

刺繍のように連なる幾何学模様

01 - イッチン技法で施された幾何学文様
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白磁の肌へ連綿と施された幾何学文様は
純白の糸で縫われたドレスの刺繍のような気品を漂わせています。

この立体文様は、白い泥漿(でいしょう)を焼造することで生まれます。
泥漿とは、粉末状の粘土に水や釉薬を混ぜたもので、イッチン技法には欠かせない材料です。

図案の輪郭線を盛ることで、文様を浮かび上がらせるイッチンは
佐賀県の古唐津、大分県の小鹿田焼、沖縄県のやちむんにも凝らされる伝統技法です。
中国大陸では明時代に「法花」と呼ばれ、西洋においては「スリップウェア」として浸透しています。

このようにイッチン技法は古くから存在していますが
九谷焼においては開拓の余地を感じさせる意匠です。

例えば、古九谷の花鳥や幾何学文様を、イッチン技法によってリ・デザインする方向性には
伝統的なモチーフを、劇的に生まれ変わらせる可能性を秘めています。

 

多彩な花紋を咲かせるイッチン技法

05 - 華マンダラは、花びらを何重にも描く文様。
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イッチン技法を駆使して、多彩なデザインを展開する苧野直樹さんは
これまでに華マンダラ、バラの唐草、福寿草の花菱紋など、遊び心の溢れる文様を編み出してきました。

そうしたアイデアの源泉となっているのが伝統文様です。
陶磁器や着物、仏像などの工芸品に古くから採用されている文様を
部分的に拡大し、切り取り、組み合わせるなどの工夫を凝らし、新たな魅せ方を試行錯誤しています。

時には人の名前から紋様のインスピレーションを受けることもあります。
日本人の苗字は、自然風景を想起させるものが多く
例えば、藤の花を波のように揺らめかせて描いたカップは
藤波さんという方との出会いから生まれた作品です。

つる性の植物である藤は、「不死」の語呂にも重なるうえ、
唐草のように伸びることから「繁栄」の願いも込められるため
二重の祈りを掛け合わせたダブル・ミーニングな文様に仕上がります。

日本に加え、アジアやヨーロッパなどで生まれたありとあらゆる文様を組み合わせることで
無数のデザイン展開が可能となり、そこに込められるメッセージも多重多層なものとなります。

 

荘厳に象られた霊獣や仏具

14 - 花器に巻きついた2頭の龍。
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