古染付や祥瑞、古九谷のデザインを日用食器へ取り入れる浦陽子さん
古窯の舶来品に倣った日用食器
焼物には、歪みや凹みを愛でる文化があります。
例えば16世紀末、茶人の古田織部は「へうげもの」や「焼き損ない」と
評された焼物で茶会を演出し、招待客を驚かせています。
似たような傾向は、17世紀頃に中国大陸で焼造された「古染付」や「祥瑞」などにも伺えます。
藍染を想起させる美しい染付磁器は、明や清で宮廷御用品として用いられたほか、
貿易磁器として日本やヨーロッパへと輸出されました。
こうした古窯の焼物に倣いつつも、確固たる作風を滲ませるのが、
石川県加賀市山中温泉に工房を構える浦陽子さんです。
浦さんの焼物においても、わずかな歪み・凹みが、不思議と存在感を放っています。
手仕事の痕跡が残る磁器に描かれるのは、古窯の舶来品に着想した文様などです。
芙蓉手や古染付、祥瑞、天啓赤絵、南京赤絵と多岐に渡る古美術を手本とするほか
江戸時代初期に石川県加賀市で発祥した「古九谷」の絵柄を描くこともあります。
さらには西洋更紗やウイリアムモリスといった布製品の柄からデザインされた磁器も手掛けています。
古美術のデザインに倣った磁器は、あえて厚手に造形されており
丈夫で実用性に優れた仕上がりが特徴です。
僅かに凹ませる「型打ち」に冴える
芙蓉手や古染付、祥瑞などの藍。
中国明代の万暦年間(1573~1620)頃、景徳鎮で施された紋様様式に
「芙蓉手」と呼ばれるデザインがあります。
器の中央へ、大きな窓絵を描き、その周囲を区切る紋様構成は
日本で芙蓉の花に見立てられ、染付の意匠として広く愛されています。
芙蓉の花びらにあたる8つの窓枠には
団扇や巻軸、隠れ笠といった「宝尽くし」が装飾されており
その表面をさっと撫でると、わずかな窪みに気付きます。
触れた瞬間に存在感を放つ、驚くほど繊細な凹みの意匠は
「型打ち」という技法により生み出されています。
色絵の表情を豊かにする素朴な歪み
素朴な歪みは、焼物の個性を豊かにします。
赤絵唐草や古九谷の百花文などが
リズミカルに踊るように描かれている色絵磁器も
わずかに変形しており、穏やかな線描と調和しています。
焼物に味わいを漂わせる手仕事の痕跡は
型打ちや蹴りろくろによって生じたものです。
「蹴りろくろ」とは、その名の通り、足で蹴って回転させるろくろです。
今日では電動ろくろを使う陶芸家も多いなか
浦さんは、修業時代から蹴りろくろを使い続けています。
ずっしりと重い木製ろくろを扱うのは力仕事であり
電動よりも回転スピードも遅くなり、それに合わせ
柔らかい粘土が使われ、自然と歪みが生じます。
ヨーロッパ風のデザイン