- 司会 >
- 今回は、東京の出光美術館主任学芸員の荒川正明と九谷焼窯跡展示館学芸員の田嶋正和さんにお話をお伺いしております。
中矢さん、荒川さんは昨年東京の美術館で「古九谷展」を企画、開催なさってますね。
- 中矢進一氏 >
- そうなんですね。ここにその時のチラシとですね図録がございます。
- この「古九谷その謎に迫る」というタイトルで、東京の出光美術館を会場におよそ150点を一同に並べましてね、荒川さんはその主任学芸員としてこの展覧会を取り仕切ったわけですね。
- 司会 >
- とてもたくさんの古九谷ファンの方がいらっしゃって大変盛況だったそうですけれども、展示会の開催に際しましてのエピソードですとか、お話を伺っております。VTRをご覧ください。
収録ビデオ画面より |
対談
- 中矢進一氏 >
- まず、古九谷展の開催趣旨のようなものをお聞きしたいのですが。
- 荒川正明氏 >
- 出光美術館の創業者、出光佐三と申しますけれども、美術館の初代館長、石油の出光興産の創業者でありますけれども、古九谷と出会ったのが昭和10年代というふうに言われております。ですからかれこれ70年以上前になるかと思いますけれども、とにかくそのスケールの大きさ、力強さに心打たれまして、それ以降古九谷に惚れ込み、収集を続けてきた訳でありますけれども、この古九谷のコレクション、出光のコレクションが、一般に公開されるのが本当に久しぶりであります。ですから、この出光コレクションを久しぶりに多くの方に観ていただこうということがまず第一に挙げられます。
それと近年の考古学などの成果などもありまして、古九谷の研究もかなり進んできたということで、この平成の時代の古九谷、こういうものを新しい研究成果も踏まえながら、どういう風に展覧会として提示できるかということで今回試みといいますか、チャレンジした訳でございます。
- 中矢進一氏 >
- 実は東京でこの古九谷展と銘打つ大きな展覧会が開かれるのが、先ほどの開催の趣旨の中でも少し触れられましたけれどもずいぶん久しぶりという話らしいですね。
- 荒川正明氏 >
- ええ、そうなんです。東京でということになりますと、ずいぶん行われてなくて、この出光美術館でも開館した年、38年前にやったきりということで、おそらく40年近く東京では本格的な古九谷展はしてなかったということになるかと本当に驚いているのですけれども、それで今回は2ヶ月弱で約3万人のお客様、大変多くのお客様にご覧いただき楽しんでいただいたのですけれども、実は最初の頃にはあまり入館者数が伸びませんで、どうも見てますと我々が期待していたよりは、むしろ古九谷という焼き物が、ちょっと忘れられつつあるような気がいたしました。
やはりそれだけまとまって観る機会が少なすぎたということかと思いますけれども、熱狂的な愛陶家の方々は当然いるわけでありますけれども、一般の器好きの主婦の方とか若い世代が古九谷のイメージをあまりもっておられなくて、来館されて素晴らしいものを観て本当に感動してお帰りになっている訳ですけれども、実は意外なことに一般の愛陶家の方々、若い方々には忘れられつつあるということがちょっと心配しております。ですから、今回の展覧会もいい機会になりましたけれども、今後東京などでますます古九谷展が開かれていること、それが多くの古九谷のファンを広げることになっていくことになると思っている訳であります。
- 中矢進一氏 >
- この古九谷展の内容だとか、荒川さんが構築された色々の「章立て」がありますけれども、その詳しい内容についてちょっとお話をいただけますか。
- 荒川正明氏 >
- いま古九谷の出光のコレクションというのがだいたい200点程あるかと思いますが、今回そのうち約140点程選んで出しております。そして、それ以外に、この石川県九谷焼美術館を始め石川の個人コレクター、あるいは東京のコレクターなど重要文化財含めまして10点程名品をお借りいたしました。
そして、古九谷の醍醐味をたっぷりご覧いただこうということで、まず大皿を、とにかく古九谷は大皿だということで、大皿を約50枚程、五彩手と青手とに分けまして、その醍醐味を堪能していただく部屋を作りました。そして、そのあとは少し軽やかな酒の器あるいは懐石の器、食器、そういう小物類を集めたコーナを作りました。
もう一つは、産地の問題ということで、九谷の窯跡の製品、あるいは一部有田の窯跡の製品を並べ、最後には東京の本郷にあります、東京大学内の加賀前田あるいは大聖寺の藩邸跡から出土しましたすばらしい陶磁器の数々、特に古九谷の五彩手を始めとする前田家しか持ち得なかった古九谷の名品、それをお借りしました。今回は古九谷の名品をじっくりご覧いただくとともに、古九谷を作った場所、そして使った人々、そして前田家との関わり、そういうものを総合的にご覧いただき、そして今回屏風なども、金屏風、「亭内遊楽図屏風」、そういうものを背景に置きまして当時の時代や社会にも思いをはせていただこうということで構成いたしまして、古九谷の魅力をたっぷりとご覧いただこうというふうな内容になっております。
- 中矢進一氏 >
- それでは最後ですけれども、この古九谷展、出光の方で開かれた古九谷展の来館者の反応のようなもの、それから荒川さんご自身が思われている古九谷感みたいなものに少し触れていただいて、このインタビューを締めたいと思いますが・・・
- 荒川正明氏 >
- 今回のお客様の特徴としては、いずれも滞留時間といいますか、館におられる時間が長くて、本当に驚嘆の声を上げながらじっくりご覧いただいておりました。特に現代のモダンな感性から見ても、驚くべき色彩感覚、そしてデザインの斬新さ、刺激を受ける大胆さといいますかそういうものが器に溢れ出ているということ、それを皆さん驚かれておりました。
まさに私も古九谷から受ける印象は、これほどエネルギーに溢れた器っていうのは日本の什器では無かったのではないかと思います。まさに当時の江戸初期の人々がこの器に込めた思い、おそらく豪奢な宴の場でメインディッシュとして置かれる、それはハレの場を飾る、非常に聖なるものであったり、力強さであったりしますけれども、その生きる力、エネルギーそれをこの器から貰うといった、そういうような思いがあったのではないかと思います。
そのようなエネルギッシュな器、それを加賀と大聖寺の前田家がおそらく、かなり関わりの中で作っていったのだと私も考えています。特に前田藩邸から出ました五彩手の最高クラスですね、百花手、幾何学手、九角手、そういったものがほかの大名家には出ておりません。おそらく前田家の注文のもとに作られた可能性が高いのではないかと思っております。そのような日本の陶芸史における金字塔と言われるような古九谷という器を作らせていった前田家、その美意識と熱意には本当に驚くべきものがあるかと思います。
この古九谷の素晴らしさをまだまだ現代の人々は知っていないというふうに思います。今後ますますこの器の魅力、そしてまさに今活躍する陶芸家の方々にも是非ですね、今九谷と言いましょうか、古九谷を超えるような素晴らしい現代の九谷焼を作っていっていただきたいと思います。そういう意味で加賀の方々に対する期待は非常に大きいというふうに思っております。
収録ビデオ画面より |
対談終了
- 司会 >
- 中矢さん、東京でこれだけの古九谷を一同にそろえての展示というのは、30年ぶりくらいだったそうですね。
- 中矢進一氏 >
- ええ、そうなんですね。出光コレクションというものを中心にそういう展覧会をなさったわけですが、特にこの荒川さんの視点というのは、加賀前田家無くして古九谷の誕生無しというポジションでなさっておられますので、そういう視点から見た古九谷展というものを私どもに紹介をしてくれたと思います。